Home参考書・辞典・資格・語学連載コラム子どもの可能性を引き出す アメリカ最新教育事情第16回 アメリカのいじめ問題

連載コラム

幼児小学生

子どもの可能性を引き出す アメリカ最新教育事情

第16回 

[2011年01月21日 公開]

アメリカのいじめ問題

織井弥生

2010年、アメリカでは、いじめが原因で10人以上の中高生が次々と自殺しました。
これを大きなきっかけとして、アメリカ社会におけるいじめ問題の深刻さが取り上げられるようになりました。

誰でもなり得るいじめの加害者・被害者

アメリカで自殺したティーンエイジャーたちは、いずれも同性愛者だという理由でひどいいじめを受け、悩みぬいた末の悲しい選択だったということが明らかになっています。
これを受けて、8月には、政府主導によるいじめ防止委員会が開かれ、政府・州・地域の組織、非政府組織、研究者、企業、青年らによって、いじめの現状や対策、防止策などについての議論がなされました。

10月に、オバマ大統領は「いじめは単なる成長の一過程だとする神話を捨てるべきだ」という声明を出し、いじめ問題の深刻さに対する意識の喚起を世の中に強く促し、クリントン国務長官も、いじめを受けている若者に対して、いじめに立ち向かう励ましのメッセージを発信しました。
そして、アメリカ政府は、小学校・中学校・高校・大学や地域の学校区に対して、学校におけるいじめや嫌がらせの対処法に関するガイドラインを出しました。
そのガイドラインには、人権を侵害するいじめや嫌がらせの具体例が示され、また、生徒の人権を侵害するいじめに対処しなかった学校には、国から支給する教育費を削減するといっています。

ニュース専門チャンネルのCNNでは、10月に1週間、いじめの特集を組み、最近のいじめの実態と、いじめを原因とする自殺の背景に迫りました。
浮き彫りとなったのは、いじめの気軽さ、陰湿さ、強硬さです。

全米の4万3千人の高校生を対象に行われた「The Ethics of American Youth(アメリカの若者の倫理に関する調査)(2010年)」によると、高校生の50%が過去1年間に誰かをいじめた経験があり、47%が過去1年間になんらかのいじめを受けたと回答しています。

一方、全米PTAの調査では、77%の小・中・高生に「これまでいじめられた経験がある」という結果が出ています。

何かのきっかけで突然いじめられ始めることもあれば、いじめの加害者だった子どもが、いじめられる側に回ってしまうこともよくあることです。
PTAは、多くの子どもが告げ口をしたと思われたくないため、いじめの報告が上がるのは、実際の半数程度にとどまっていると指摘しています。
これらのデータを見る限り、少なくとも、いじめは、どの学校にも起こりうる現象で、アメリカでも極めて身近で深刻な問題です。

ネットいじめの怖さ

アメリカではいじめをいくつかに分類しています。
以前から存在する典型的ないじめは、肉体的な攻撃、言語的な攻撃、そして社会的な攻撃です。

肉体的ないじめは、叩く、殴る、蹴るなどの暴力行為で、主に男子間で起こります。
先に出ました「The Ethics of American Youth(アメリカの若者の倫理に関する調査)(2010年)」では、3分の1の高校生が「学校で暴力が大きな問題となっている」と答え、4分の1の高校生が「学校は安全な場所ではない」と回答していることから、暴力が学校社会を脅かす要因となっていることは明らかです。
言語的な攻撃は、言葉による辱めやからかいなどです。
一方で、社会的な攻撃は、意識的に仲間はずれにする、悪い噂や中傷を流すなど、個人の尊厳や友情、社会的地位をおとしめる行為であり、主に女子に起こるとされています。

これらのいじめに加えて、近年、ネットいじめ(英語でCyberbullying)が急増しています。
ネットいじめは、インターネットやデジタル機器、携帯電話を介した未成年間の嫌がらせや攻撃で、次のようなものが代表的です。

・面と向かって言わないような攻撃的な内容のメールを個人に送信する。
・グループになって何千通もの嫌がらせのテキスト(ショートメール)を個人に送信し、対象をいじめるだけでなく、膨大な携帯電話の通話料請求額を余儀なくさせる(アメリカでは、携帯電話ではテキストと呼ばれるショートメールの送受信が一般的であり、契約内容によっては受信にも料金がかかることがある)。
・特定の個人を中傷するメールや、攻撃対象とする個人の性的な写真を含むメールを、不特定多数の人間に送信する。
・FacebookなどのSNSで、特定の個人を攻撃する。
・特定の個人を中傷するブログやウェブサイトをつくる。
・いじめ対象の個人になりすまして、反社会的な内容のブログを作成したり、他の個人にいじめを働いたりする。

これら以外にも様々な方法で、ネットいじめは広がっています。

ネットいじめは、いじめ全体の10%程度だともいわれていますが、従来型の肉体的攻撃や社会的攻撃を伴ういじめと大きく異なる点は、逃げ場が無いということです。
従来型のいじめは、自宅に帰ったり、転校や引越しなどをしたりしてコミュニティを変えることで、自ら状況を変えることができましたが、ネットいじめは寝ても醒めても、どの場所にいても、付きまとってきます。

被害者は行き場を失い、思い詰め、自ら生命を絶つことにもなりかねないという大きな危険をはらんでいます。
簡単な気持ちでボーイフレンドにメールで送った個人的な写真が、いつの間にか学校中の生徒に転送され、更に他の学校の生徒にまで拡大し、周囲からの奇異とあざけりの視線に耐えられずに自殺したアメリカの女子高生がいました。
日本でも、メールや学校裏サイトを使った陰湿な個人攻撃が根強く、悲しいことに、いじめが原因とみられる中高生の自殺が後を絶ちません。

学校・保護者のいじめ対応力が試される

我が家の長女が在籍していた公立小学校の学校目標は、「一生懸命に取り組む」「人に優しく」「自分がしてほしいように、他の人に接する」「問題があったら、解決方法をさがす。より良い方法があったら、みつける。仲間が助けを必要としていたら、与える。助けが必要なときは、求める」というものでした。

全校朝礼で校長先生が「いじめは良くないことです。悩んでいたら、保護者や先生に相談しましょう」と講和することも頻繁でした。
実は、長女が小学校3年生の時に、仲良しだった子の態度が急に変わり、他の子と組んで、娘の荷物をわざと蹴ったり、外見の悪口を言ったりしたことがありました。
私が担任の先生に相談したところ、先生はすぐにその二人を呼び出して厳しく注意をしてくださいました。

いじめはすぐに完全に止まりませんでしたが、担任の先生が目を光らせ、注意を繰り返してくださった結果、やがていじめは収まりました。
現在通っている私立校でも、「いじめを許さない。いじめを認めない」ということを繰り返し先生がたから言われているようです。

この学校では、6年生のときに、他の男子から軽いからかいの対象になる男子生徒がいたようですが、からかいを先導していた男子グループが先生からきつく指導され、以後、そのようなことは全く無くなりました。

アメリカの学校では、子どもの悪い行いについては、保護者が呼び出されて担任や校長から厳格に注意されます。
そして、行いが改善されない場合は、退学させられます。
退学させられた場合、引越しして他の公立校なりに転入しようとしても、報告書がついて回りますから、受け入れられるとは限りません。
ですから、保護者も子どもの指導には真剣にならざるを得ません。

アメリカの学校には、さまざまな人種や宗教、家庭環境の子どもがいます。
それが背景となっていじめが発生することは事実です。
個人主義と思われるアメリカでも、「ヘン」「変わっている」「ゲイ(本当にそうであってもなくても)」などの一方的で理不尽な理由でいじめが起こるのです。

「ひとりひとりの違いを尊重する」「強い心を持つ」「自分を大切にする」「一人で悩まずに助けを求める」・・・。

いい古されてはいるものの、保護者や教師という最も身近な大人たちが、これらの真理を繰り返し子どもたちに説き、自分や周りでいじめが現実に発生したときに勇気を持って立ち向かえるように導くことは絶対に必要です。
「いじめは絶対にいけないこと」「いじめを許さない」という信念のもと、家庭・学校・地域社会に、現実にいじめを受けている子どもたちの壊れそうな心をしっかりと支え、希望を持てるように助ける機能が働いていることが、最悪の事態から子どもを救い出すために必要だといえます。
これは、アメリカも日本も同じではないでしょうか。

織井弥生 (おりいやよい)

織井弥生(おりいやよい)

幼少時6歳までをアメリカ合衆国にて過ごす。 
上智大学外国語学部英語学科卒業。
大手メーカー勤務後、日米教育委員会フルブライト奨学生として、トップビジネススクールのノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院に留学、卒業(MBA)。
エンタテインメント企業、インターネット関連ベンチャー企業等で事業企画、マーケティングに従事。
2001年より日米間を行き来し、子ども(現在現地校小6と小1)を日本とアメリカの公立・私立校に学ばせる。
現在、カリフォルニア州に在住し、教育関連のコンサルティングと執筆を行うほか、アメリカ在住の日本人の現地生活適応を手助けする「海外生活サポートサービス」代表を務めている。
訳書に「マーケティング戦略論」(ダイヤモンド社)ほか。

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